NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2017, No.30

メキシコに吹いたトランプ旋風

欧米や日本の自動車関連メーカーが集積する中央高原(バヒオ地域)。高速道路の料金所などには英語とドイツ語、日本語で歓迎のメッセージが書かれている

欧米や日本の自動車関連メーカーが集積する中央高原(バヒオ地域)。高速道路の料金所などには英語とドイツ語、日本語で歓迎のメッセージが書かれている

メキシコに進出する日系企業は、円高傾向が続いた2011年以降に増え始めた。マツダとホンダの2社は新工場の建設を相次ぎ発表し、14年にそろって新工場を稼働。部品メーカーなどもこれに続いた。しかしこうした動きに水を差したのが、米国大統領に就任したトランプ氏だ。フォードやトヨタなどメキシコでの新工場建設を計画する特定の企業を非難し、メキシコからの輸入品に高い関税をかける考えなどを示してきた。

デルバヒオ空港から自動車で約10分、リンテルが運営する「サンタフェ工業団地」。ここだけで日本企業が約50社入居している

こうした「トランプ旋風」を理由にメキシコから撤退した日系企業はなかったとみられ、粛々と事業を進めてきた企業もある。ただ一方で、間接的に影響を受けた企業があったのも事実だ。

タイで30年近く工業団地の開発・運営を手掛ける実績を持つ日鉄住金物産は、新たな工業団地事業の展開先にメキシコを選び、16年春から提携先の選定を始めた。同年12月には、地場の工業団地デベロッパー最大手のリンテルと、日本での工業団地の総代理店契約を締結した。

メキシコに駐在する日鉄住金物産の佐藤弘規氏はリンテルの工業団地のセールスポイントとして、ブランド力の高さや豊富な工業団地の数(建設中含め国内9カ所)などを挙げる。昨年9~10月の時点では多くの企業から進出を検討する内容の問い合わせなどがあった。しかし、11月にトランプ氏が米大統領選で勝利し、メキシコのビジネス環境への様子見ムードが高まると、新規案件の数は急激に減少したという。

物流大手も影響を受けた。郵船ロジスティクスのメキシコ法人の担当者は「(日系企業が多く集まる)中央高原(バヒオ地域)はインフラ整備が行われる中でメーカーの生産が続く状態なので、輸送トラックの供給は需要に追いついていない」と活況ぶりを話すが、新規投資向けの生産設備の輸送業務は止まってしまったという。同社は中期経営計画でメキシコを重点地域に位置付け、16年には同社のメキシコで初めてとなる物流施設を建設したばかりだった。

グアナフアト市の土産店で見つけたTシャツ。メキシコの国民的英雄でプロレスラーのエル・サントとトランプ米大統領が風刺的に描かれていた

結局、トランプ政権は北米自由貿易協定(NAFTA)からの撤退と「国境税」の導入を見送ると4月に表明し、最も懸念されていた事態は免れた形となった。5月には、同政権がNAFTAの再交渉を始めると議会に通知した。

日鉄住金物産の佐藤氏は、8月中にも予定される再交渉に期待を寄せる。メキシコについては「市場の潜在性や地理的メリットなどを考えれば、長期的に投資をお勧めできる国」と評価。トランプ旋風を受けて新規進出企業の動きは鈍ったが、進出済み企業の引き合いや工場の拡張案件は多いため、実需が確実に存在すると実感している。メキシコへいま進出する意義は十分にありそうだ。

日鉄住金物産としては、日系企業向けの不動産事業や発電・給水などのインフラ事業を今後展開したいとして、現在調査を前向きに進めている。

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