NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2017, No.27

越の先例となるフィリピン

三菱自の現地生産、今年は倍増へ

フィリピン

ベトナムの先行指標とされるのがフィリピンだ。フィリピンはタイやインドネシアなどと共に、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内における輸入完成車(CBU)関税を2010年に撤廃している。ベトナムと同様、自動車の販売台数の成長は著しいが生産台数の規模は小さく、産業の集積もタイやインドネシアのようには進んでいない。このため、その需要は主に輸入車で賄われ、販売台数に輸入車が占める比率は7割に達しているとされる。ただ、フィリピンでは自動車の現地生産を後押しする「包括的自動車産業振興戦略(CARS)」プログラムが政府により進められ、トヨタ自動車と三菱自動車の2社が現地生産を加速しようとしている。

ミツビシ・モーターズ・フィリピンズ・コーポレーション工場

これまで自動車関連メーカーはフィリピンに見切りをつけて撤退、または事業を縮小してきた。米フォード・モーターはゼロ関税化後の12年にフィリピン工場の閉鎖を決定。ホンダは同年にセダン「シビック」の現地生産をやめることを決めた。ホンダ系部品メーカーのケーヒンも当初予定より生産台数が伸びないとして子会社を10年に清算していた。

こうした中で、現地生産に積極的なのが三菱自だ。現地法人のミツビシ・モーターズ・フィリピンズ・コーポレーション(MMPC)の設立は1963年で、現地で長い歴史とブランド力を持つ。同国での市場シェアはトヨタ車に次ぐ約2割で、三菱自の他国市場と比べて大きい。三菱自は2014年にラグナ州サンタロサにあった旧フォード工場(年産台数5万台)を取得すると発表し、15年に同工場での生産を開始。14年には現地のトランスミッションメーカーのエイシアン・トランスミッション(ATC)も買収した。当時は政府の自動車産業振興策の発表が遅れ、先行きが不透明だっただけに、三菱自の積極的な姿勢がうかがえる。

フィリピンの自動車の販売台数と生産台数の推移

三菱自はこれまで小型トラック「L300」とアジア・ユーティリティー・ビークル「アドベンチャー」の2車種を生産し、16年のフィリピンでの生産台数は前年比46%増の計2万2,008台だった。

自動車産業振興策の柱となるCARSプログラムは15年6月に公表され、一年後の16年6月にトヨタ自動車と三菱自が登録した。CARSでは、3社・3車種を対象に6年間で計270億ペソ(約600億円)の税優遇が付与され、認定車種には6年間で20万台以上の生産と一定規模以上の投資が求められる。生産台数の条件が厳しいことから、残り1枠が空いている状況となっている。

フィリピンの自動車ゼロ関税化とCARS

三菱自は今年2月、フィリピンで初めて同プログラムの認定車として小型セダン「ミラージュG4」の生産を開始した。5月にはハッチバック「ミラージュ」の生産も始める。今年はこの2モデルを計2万台生産し、現地生産台数を合計で前年比約2倍で過去最高となる4万2,000台に引き上げる計画だ。

一方でトヨタは小型セダン「ヴィオス」のCARS認定モデルの生産を来年半ばに開始する予定となっている。

部品産業の厚みが出て、良い循環ができてくる

ミツビシ・モーターズ・フィリピンズ・コーポレーション 加藤芳明社長

ミツビシ・モーターズ・フィリピンズ・コーポレーション 加藤芳明社長

─―生産を開始したミラージュの販売の出足は

2月末の記念式典をさまざまな媒体に取り上げてもらって話題は提供していると思いますが、販売につなげていくのはこれから。タイからの輸入車を現地生産車に切り替えたので、国産を前面に打ち出してプロモーションしていきます。

現時点で現地生産によりコストが大きく下がるわけではないので価格は変えませんが、後々のインセンティブや現地調達率の引き上げ、部品産業の成長により、今後コスト競争力はついてくるでしょう。

─―旧フォード工場を購入して生産能力を拡大した

歴史的に新興国では自動車産業の発展の過程で優遇政策が出されてきたので、フィリピンでもという期待がありました。当社の旧工場は周囲が住宅街になり、もともと拡張できる場所を探していたところ、フォード工場の売却とタイミングが合いました。

フィリピンの新車市場は2020年に50万台に拡大すると言われていますが、今の勢いならその前に到達できるでしょう。タイは人口が約7,000万人で80万~100万台の市場があります。一方、フィリピンの人口は1億人で中間層も増え、市場は当面、拡大基調にあるとみています。また当社は特にASEANに注力しており、中でもタイとインドネシア、フィリピンを重要視しています。フィリピンでは歴史的にシェアが高いので、さらに販売と生産を強化していきます。

CARSプログラムは、部品産業を育てたいという政府の意向に共感し、自動車製造業の発展に寄与したいと思い参加しました。

─―タイとインドネシアで作って輸出する選択肢もあった

タイには年間50万台規模の工場があり、ミラージュやピックアップトラックの生産拠点になっています。インドネシアも新しく工場を作って4月に稼働します。同じクルマを3カ所で作るというのは非効率的なので、これからはその土地にあったクルマを作っていくべきというのが基本的な考え方です。フィリピンではミラージュのような小型乗用車が急成長しています。

ミラージュは国内向けに生産を始めましたが、将来的に輸出したいという思いがあります。品質やコスト、輸送で高いレベルが求められますが、今後の生産でその実力を示せれば可能性はあります。

─―今後フィリピンを生産拠点としてどうみるか

CARSプログラムによって生産台数が増え、部品産業の厚みも出てくるでしょう。そうなれば、部品メーカーの進出もあり得ますし、産業にとって良い循環ができてきます。今の段階で言えるのは、産業は確実に成長するということ。現地で調達できる部品の数も増え、質も向上する。新しい車種を投入したり、新たな生産拠点を設けたりするメーカーが出てくる可能性もあります。

─―今後の販売目標は

台数は毎年過去最高を更新していますが、競争が激化し、残念ながらシェアは下がっています。われわれが商品を持っていないセグメントが伸びているのも要因ですが、昨年は他社の攻勢に後手になりました。今年は国産ミラージュを原動力に前年比約2割増の7万5,000台を目指します。シェアは現在15%台ですが、20年までに20%に回復させたい。ミラージュの次の一手は販売網の強化です。国内のディーラー数を現在の50店から20年に70店まで増やします。顧客満足度を高め、買い換え需要も確実に取り込んでいきます。

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