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NEXTアジア PART2 パプアニューギニア

日系企業にとって有望な消費市場はどこなのか。まだ知られざる国々に目を向けた特集第2弾。アジアの限界にまで視野を広げて今回も5カ国を選定。現地取材も行った。 未来的な国、スリルに満ちた国、クセ者ぞろいの市場に迫る。

現地ルポ4 ここはアジアなのか、ワイルドすぎる大島国

文・写真 NNA豪州編集部 小坂恵敬 西原哲也

首都ポートモレスビー市のホホラ市場。近代的なショッピングセンターが建つ一方で、こうした市場もまだ残っている

パプアニューギニア(PNG)では、液化天然ガスの輸出などを背景に中産階級が育って来た。資源開発は都市部をはじめ、これまでは仕事がなかった奥地にも雇用を生み出しただけでなく、土地の所有権を持つ人々に相当な金額のロイヤルティー収入をもたらしている。

都市開発も進む。首都ポートモレスビーでは2015年に実施した太平洋諸国の運動競技大会である「パシフィック・ゲームズ」に際し、ポートモレスビー・ジャクソン国際空港から日本大使館のあるタウン地区までを結ぶ4車線の幹線道路「フライオーバー」を完工した。

国際的イベントの誘致も開発を後押しする。昨年11月にU─20女子サッカーの世界大会が開催されたほか、18年の11月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)もPNGがホスト国となって行われることから、宿泊施設を含むインフラ整備を急ピッチで進めている。

主役は「グラスルーツ」

消費市場の中心となるのは自給自足で食糧を確保し、換金作物を栽培して収入を得るグラスルーツ(草の根)と自称する人々だ。彼らは、主に華人が経営する雑貨店で日用品や家電製品といった消費財を購入している。それらの店は価格が手ごろな一方で、中国製や東南アジア製の中でもさらに低品質な商品を流通させているようで、彼らの不満は絶えない。

購買力を高めるPNG人を対象に、ポートモレスビーでは11年にマレーシア系の複合企業リンブナン・ヒジャウ(常青集団)がショッピングモール「ビジョン・シティー・ワイガニ」を開業した。先進国にも劣らない品数や品質の商品が入手可能だ。成長途上の中産階級に焦点を絞れば、小売り業やサービス業の市場には期待できるかもしれない。

企業が進出を検討する上で大きな問題となるのが電力・ガス・水道などのライフラインだ。特に電力は、水力発電が主流のPNGでは干ばつによって停電することもある。

犯罪も比較的多く発生しており、「ラスカル」と呼ばれるギャング団の動きが活発だ。警備のコストが余計にかかるのも悩みの種だろう。

ジャマイカ系が狙うモバイル需要

市内のコキ市場。「かざすと、たばこの味が良くなるんだ」という怪しげな皿を売る男

ポートモレスビーで旅行代理店PNGジャパンを経営する上岡秀雄氏によると、小型商店と食品スーパーしか無かったPNGにモールが出現したことは画期的だったという。「これまでレストランは外国人や一部の金持ちのためのものでしたが、外食を楽しむ家族連れをよく見るようになりました。また、週末はスポーツ観戦のほか、庭や河原でバーベキューやピクニックという過ごし方が主でしたが、『映画を見に行き、モールで買い物をし、食事をして帰る』といった、西洋的な生活が浸透してきました」(上岡氏)。

個人消費については携帯電話の普及拡大が目立つそうだ。背景には、ジャマイカ系で途上国市場を狙う携帯電話キャリア、ディジセルの進出がある。同社は、電話回線の無い辺地で積極的に電波塔を建設。携帯電話を1台購入すればもう1台を無料提供するなどの販促活動を行い、あらゆる地域に携帯電話を普及させている。課金方法はプリペイド式の利用が多い。インターネット接続も1日単位で対応するなど、現金収入の少ない人々でも予算に応じて利用可能だ。最近の人気は、携帯を利用したテレビ視聴だという。ディジセルは、昨年から専用デコーダーを格安で販売した。課金は携帯と同じプリペイド式。オーストラリアのラグビーリーグの試合など、見たい時に見たい期間だけ視聴できる方式が現地の人に受けている。

上岡氏はまた、新興の中産階級の消費について「スマートフォンを購入し、交流サイト(SNS)の利用に熱心。自己資金で中古車を購入できるようになったこともあり、オンラインで個人輸入を行っています」とも語った。

日系企業の進出状況:極めて少ない日系 まずは大手が切り込む

「この国の自動車市場はまだまだ伸びるでしょう」と、エラモーターズの阿辺剛CEO

PNG国民の日本に対する意識は非常に好意的だが、治安の悪さ、物価の高さ、汚職の横行などを敬遠して日本企業の進出は進まないようだ。

進出企業が極めて少ない中、豊田通商が展開する「エラモーターズ」は代表例となるだろう。1998年に豪企業から事業買収した会社で、トヨタ自動車や日野自動車などの代理販売を行う。

同社の最高経営責任者(CEO)である阿辺剛氏によると、PNGの自動車市場はトヨタのシェアが圧倒的で年間約1万台弱を販売。約760万人の人口も毎年7%ほど増えており、今後も有望な市場だという。

その他の大手では、双日がPNGの国営石油公社(NPCP)と同国産の天然ガスを利用したメタノール生産事業の合弁会社を設立し、事務所をポートモレスビーに置く。また、住友林業のグループ会社が山林事業を、太平洋セメントが韓国企業から取得したセメント製造事業を現地で展開している。

ここを見るべし!視察ポイント:暮らしを変えた 近代的モール

名称:ビジョン・シティー・ワイガニ


概要:

施設内でフードコートを利用する地元の男性

国会議事堂や各国大使館、国立大学UPNGや国立博物館が集まるワイガニ地区で2011年に開業した総合ショッピングモール。3階建て、敷地面積3万1,435平方メートル。代表的なテナントは常青集団が運営するスーパーマーケット「RHハイパーマーケット」。52カ所の店舗スペースには服飾、化粧品、家電、書籍、薬局などの国内有名店が出店。郵便局や銀行も併設されている。飲食はカフェのほか、イタリアン、中華、日本食レストランなどがそろい、映画館では先進国とほぼ同時期に新作が公開されている。

アクセス方法:

タクシー、バス、レンタカー、ハイヤー

ポイント:

市場のターゲットとなる中産階級が好んで集まり、彼らの最新の消費動向をうかがうことができる。どのような価格帯で勝負できるかなど、彼らの懐具合に注目すると良いだろう。

大使に聞く:豊富な観光資源を生かせるか

在パプアニューギニア日本国大使館 特命全権大使 松本盛雄(2016年8月取材時点)


──ニューギニア航空が日本便を週2便に増やした。日本人の観光客は増えるのか

「パプアニューギニアは極めて親日的な国」と松本大使

統計では毎年3千数百人の日本人が来ている。傾向を見るとこの約5年間で横ばいか減少。多くは、ここで乗り換えて他の島国に行ってしまうようだ。遺族会のような方々は来るが、観光客はあまり増えていない。治安が悪いことが何より大きな課題だ。今は約800の民族がいて、みな言語が違うといわれる。それぞれのコミュニティーが閉鎖的で民族紛争などが起こることも問題だ。国内の物価が高く、格安航空で日本から豪州のケアンズに行ったほうがずっと安いこともある。

ただ、サンゴ礁に囲まれた島々はもとより、ハイランドといわれる標高の高い地域には4,000メートル級の山があり、普通の島国にはないとても住みやすい高原地域もある。そういう地域には手つかずの自然があり、観光資源にはとても恵まれている。それを生かす手立てがないのが問題。

──日本企業にとって液化天然ガス資源以外にPNGの経済的な意義は

直接的にはマグロや資源。PNG周辺の海域は世界有数のマグロ漁場として注目されている。また、昔から南洋材といって木材を輸出してきた。今、住友林業が唯一の大きな林業企業としてラバウルで植林を行っている。銅、ニッケル、金といった鉱物資源もある。このほか、豊田通商がエラモーターズを展開したり、太平洋セメントが生産工場を操業、商社では双日が国有企業と石油化学の合弁事業を始めている。

──中国の影響は大きいか

通信大手の華為技術が、この国の通信インフラを握ろうとしているほか、中国の国有企業が道路建設などに参入している。しかし、世間で言われているほど中国人が大量に進出しているようには見えない。現時点で中国が国策としてPNGを重視しているということはないようだ。(中国とは2016年に外交40周年を迎えたが)これまで中国の最高指導者は来ていない。

パプアニューギニアの進出魅力度

評価:C

治安の悪さ、人件費や不動産など事業コストの高さ、為替相場の不安定な通貨キナなどが問題。ただ、大幅な人口増加でいずれ人口約2,400万人のオーストラリアを超えるとの予想もある。天然資源の開発が順調に進めばさらに所得水準が上昇する可能性もあり、消費・販売マーケットとして大きなポテンシャルを秘めているかもしれない。(NNA豪州編集部 西原哲也)

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