貧者の多いフィリピンにあって、物乞いは日常の光景の一部だ。赴任当初は見て見ぬふりを決めて、そそくさと立ち去るのが常だった。「お金をめぐむ」という行為が傲慢(ごうまん)な気がしたのと、他国を旅行した際に施しを断って、ひどく毒づかれた経験のためだ。
最近は当地の世情にもだいぶ慣れて、自然にポケットの小銭を探るようになった。物乞いには幼児を抱いた母親、身体の不自由な人、高齢者なども多い。根本的な解決でないことは百も承知。それでもごくわずかな金銭ではあるが、人々の険しい表情が一瞬でも和らぐのは、決して悪い気はしない。
ところで、わが祖国も生活保護の受給者が200万人を超え、戦後の混乱期に近づきつつあるとか。受給者も見た目は「普通の人」と変わらない。当地と異なり、むき出しではない分、日本の貧困問題はさらに深刻なのかもしれない。(須)
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