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【有為転変】第127回 中国企業の侵食を阻止せよ(上)

オーストラリア当局が最近、中国企業による地場大手企業の買収を阻止する例が相次いでおり、注目している。スパイ活動の懸念があるとして中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を、第5世代(5G)移動通信システム事業から排除したり、香港のインフラ大手、長江基建(CKI)による、送電大手オースグリッドやオーストラリアパイプライン大手APAに対する買収を却下したことはその最たる例だろう。外資による買収などを審査するオーストラリア外資審議委員会(FIRB)の中国企業に対する態度が再び硬化した背景には、何があるのだろうか。

ちょうどこの原稿を書いていた17日に、FIRBが中国企業による買収審査を厳格化する、とオーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(AFR)が報じていた。

同紙によると、FIRB関係者は、中国政府が先に定めた「国家情報法」で、民間企業と国有企業に対する立場の区別を無くしたと指摘。「(言うことを聞かない)民間企業はひどい仕打ちが科されることになる。民間企業であっても、中国政府から知的財産や情報提供などの要求があれば従わざるを得ない」と分析している。

こうしたことから、FIRBは2014年に中国と結んだ自由貿易協定(FTA)以来、緩めていた中国企業に対する投資審査基準を再び厳格化することになる。これまではFTAにより、国内産業の「非重要部門」で11億5,000万豪ドル(約897億3,860万円)以下、「重要部門」で2億6,600万豪ドル以下の買収案件をFIRBの事前審査を経ずに承認してきたが、今後は中国企業が関わるほぼ全ての買収案件でFIRBが審査することになる見通しだ。

フライデンバーグ財務相は「国益に反しない限り外国企業の投資は歓迎する」と述べ、「特定の投資家や国を対象にしたものではない」と話した。

■「香港企業は中国企業」

FIRBの長官を務めるデビッド・アーヴィン氏は、元中国大使に加え、オーストラリアのスパイ組織である安全情報機関(ASIO)や秘密情報局(ASIS)の長官も務めた経歴を持つ異色の人物だ。

アーヴィン氏が長官になった背景事情がある。15年末に当時のターンブル政権は、外国資本が「重要な行為」を行う場合、FIRBは国益を考慮して、禁止命令などを発令できるなどとする外資買収法を40年ぶりに改正した。これは個人的には、北部準州のダーウィン港運営権を中国企業の嵐橋集団(ランドブリッジ)に渡してしまった国内制度の反省からだろうと見ている。

しかもその時にFIRBの人事も刷新し、長官に就任したのが、名うてのタカ派であるアーヴィン氏だったのだ。国内の5G事業やオースグリッド、APAなど、FIRBが不認可とした最近の中国企業による投資・買収案件は、アーヴィン長官による采配だ。特に、企業統治で国際評価の高い香港企業までも「中国企業」とみなしたところに、中国脅威リスクを重んじたアーヴィン長官の強い意志が透けて見える。

■国家情報法の脅威

アーヴィン長官が警戒を強めた背景には、中国が17年6月に施行した国家情報法がある。この第7条で「いかなる組織及び個人も、国家の情報活動に協力する義務を有する」と定めており、「国は情報活動に協力した組織及び個人を保護する」と続いている。要するに、国有企業だろうが、民間企業だろうが、中国政府の情報活動に協力しなければ痛い目に遭うことを示唆した仰天ものの法律だ。

このため先進国は足並みを揃えて、中国企業に対する警戒を強めている実態がある。米国防省は、民間企業であるかのように装った事実上の国有ファンドが、シリコンバレーの将来有望な中小のテクノロジー企業を買い漁っていると懸念。またドイツ最大のビジネス団体BDIも、中国による買収に対する審査を厳格化するよう欧州連合(EU)当局に求めている。

諜報機関が情報共有協定を結び、「ファイブアイズ」と呼ばれている米国と英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国は、昨年7月にカナダのオタワで行った秘密会合で、華為を5G事業から締め出すために協力することでも合意した。

■現在進行中の買収案件

オーストラリアでも現在、アーヴィン長官の下でFIRBが近くどういう判断を下すか注目を浴びている案件がある。

プライマリー・ヘルスケアの旧社名で知られる医療業界大手ヒーリアスが、中国で医療サービスや建設業など多角的事業を手掛ける江河創建から、約20億豪ドルで買収提案を受けていることだ。

懸念されているのは、オーストラリアの政治家などの重要人物を含め、個人の医療情報やデータなどが中国企業に渡る可能性があることだ。アーヴィン長官は、ある投資フォーラムで次のように語っている。(来週に続く)【NNA豪州・西原哲也】


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: マクロ・統計・その他経済社会・事件

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