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【アジアで会う】平野甲斐さん サッカー選手 第203回 挑戦心に動かされて(タイ)

ひらの・かい 1987年生まれ、島根県隠岐の島町出身。びわこ成蹊スポーツ大学卒業後、2010年にJリーグ2部(J2)カターレ富山(現J3)に加入。13年にタイリーグ1部ブリラム・ユナイテッドへ移籍した後、14年にJ1セレッソ大阪へ加わる。その後タイ1部(のち2部)アーミー・ユナイテッドを経て、現在タイ2部ランパン(17年~)に所属。

立つだけで汗がにじむタイのフットボールスタジアム。ピッチで誰よりも声を出し、周囲の選手にポジショニングの修正を指示する。ボールを方々に散らして試合を組み立て、守備では球際の激しいプレーでチームを鼓舞する。その戦う姿勢にサポーターも「ヒラノ・カイ」のチャント(応援歌)で応える。

したたる汗が選手としての生き様をピッチに刻んでいるようだが、実際にそうなのだろう。平野選手は5月末で現役を引退すると決めている。

「サッカー選手として自分の力で見られる景色は見ました。サッカーはお金ではなく目標や夢のためにやってきたので、次の目標ができた今新たな道に挑戦するのが自分らしい」。引退後は大阪のオーダーメイドスーツなどを手掛けるベンチャー企業でセカンドキャリアを歩む予定だ。晴れやかな表情の解は濃縮したサッカー人生にある。

■タイで変わった意識

島根県の離島、隠岐の島町で育った平野選手。小学4年のとき、島に来た指導者に将来有望な選手を集めて育成する日本サッカー協会の「トレセン制度(ナショナルトレーニング制度)」に推薦され、週末にフェリーで島を離れて練習に参加するようになる。地元の中学校にはサッカー部がなく、同県出雲市にある有名クラブでプレーするため、親元を離れて下宿した。「サッカーがしたくて親に苦労と心配をかけたと思う」。少年時代の挑戦心は、大学卒業後のプロ選手への道へつながった。

スピードと身体能力に優れ、試合の流れを変える切り札として途中出場が多かったカターレ富山時代。プロ3年目を終え出場機会を求めて移籍したタイのブリラムで転機が訪れた。いまやアジアの強豪に成長したブリラムは当時、クラブの会長が代わりビッグクラブを目指す方針を掲げて間もない時期。外国人選手を次々獲得して結果が出なければ短期間で契約を解除していく厳しい環境下で、「生き残ることだけを考え続けた」。熱帯の国で「チームの誰よりも走ること」を決めてプレースタイルが変わった。

■ステップアップと喪失感の先に

その年、国内3冠を達成したチームの中心で活躍。そしてアジアチャンピオンズリーグ(ACL)で2年続けて日本に凱旋(がいせん)し、対戦したセレッソ大阪からオファーを受けて14年7月に完全移籍を果たす。J2からタイを経由したJ1クラブへの加入は異例で注目を集めた。

当時のチームはワールドカップ・ブラジル大会に選出された柿谷曜一朗、山口蛍両選手、さらにウルグアイ代表の世界的プレーヤーのディエゴ・フォルラン選手が中心。その中でもJ1デビュー戦でゴールを決めた。試合中の走行距離でチームトップを記録することもあった。まさに無我夢中だった。ところが加入から3カ月が過ぎた頃に突如気力が失われ心身の不調に陥る。練習にも参加できず、チームもその年J2に降格する。

「チームへの罪悪感がありこのまま引退したほうがいいと考えていた」。それでも代理人の後押しもあってタイで再出発した。成功と喪失感を味わった2年間を経た2度目のタイでは「楽しくプレーできました」と声が和らいだ。

急速に成長するタイのサッカー。ただ、本当の意味でプロサッカーの水準を底上げできるかは選手の意識にかかっているという。たとえば練習に出るたびボーナスが支給されるクラブもある。練習参加を促す過去の慣習の残りだが、それで選手が満足しかねない。

近年は2部リーグでプレーしたこともあり、若手選手に努力して頑張ることで国内の強豪や海外移籍のチャンスが転がっていると、口酸っぱく伝えた。ブリラム時代に左サイドでコンビを組み、今年からJ1のヴィッセル神戸へと移籍したティーラトン選手や、何より自分自身がそうだった。

そして30歳を過ぎ、セカンドキャリアの道を選択する。頑張ることとは何かをいずれチームの若手選手にも何らかの形で見せたいとも考える。「サッカーで日本代表になれなかったし、悔しい思いもした。その分は次の世界で頑張りたい」。新たな挑戦が始まる。(タイ版編集・京正裕之)


関連国・地域: タイ
関連業種: 社会・事件

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