【プロの眼】台湾文化の一部分である「台湾映画」の変遷について

台湾映画界のプロ・西本有里(第1回)

皆さん、初めまして。観光地として安定した人気を獲得している台湾に移り住んで17年になる西本有里です。十数年間、映像関連の仕事に従事して来た自身が感じる台湾映画の変遷や特徴などについて、これから数回にわたってレポート致します。

台北市内で最も高い興行収入を誇るシネコン「台北信義VIESHOW CINEMAS」

台北市内で最も高い興行収入を誇るシネコン「台北信義VIESHOW CINEMAS」

「台湾映画」と聞いて、皆さんはどんな事が頭に浮かぶでしょうか?ホウ・シャオシェン監督、アン・リー監督、故エドワード・ヤン監督など著名な映画監督でしょうか?それとも近年日本で公開された台湾映画「KANO 1931海の向こうの甲子園」「星空」などの作品群でしょうか?もしかするとチャン・チェン、グイ・ルンメイ、チェン・ボーリンなどの人気俳優や、監督もこなす多才な歌手、ジェイ・チョウなど芸能人の名前かもしれませんね。

実は台湾映画は台湾の歴史と密接な関わり合いを持っており、歴史の流れの中で発展してきたと言っても過言ではありません。初めて台湾に映画がもたらされたのは日本統治時代のこと。それ故、日本との関わりはとても深く、台湾で初めて撮影されたドキュメンタリー映画「台湾実況紹介」(1907年)は、日本の映画人である高松豊次郎氏によって撮影されています。また高松氏は、台湾全土の主要都市に映画館を建設し、映画配給の基本的なシステムを確立しました。日本統治時代の台湾では、政治宣伝映画以外に「忠魂義烈 実録忠臣蔵」「鞍馬天狗」シリーズなどさまざまな日本映画が上映され、映画館は40館ほど存在していたようです。

戦後、中国国民党の支配下に置かれた台湾では、プロパガンダ映画がまん延します。しかし、本省人(第二次世界大戦終結以前から中国大陸各地から台湾に移り住んでいた人々とその子孫)の人々が話す台湾語(ビン南語)を使用し、歌仔戯(台湾オペラ)歌劇団が1956年に制作した映画「薛平貴與王寶釧(薛平貴と王宝釧)」がヒットすると、台湾人のための娯楽作品が続々と制作されるようになります。またこの頃、国民党は映画制作会社の中央電影事業(※)を設立し、写実主義映画や当時大変な人気を博していた女性恋愛作家、瓊瑤の小説を原作とした恋愛映画が人気を呼びます。一方で60年代後半には香港の映画人が台湾に進出し、武侠映画の大ブームを巻き起こします。特に有名な作品にキン・フー監督の「残酷ドラゴン 血斗竜門の宿」(67年)があり、この頃から台湾映画の主流を成すジャンルとして確立されました。

「台北信義VIESHOW CINEMAS」内の看板広告

「台北信義VIESHOW CINEMAS」内の看板広告

そして台湾に激震が走った71年。中華人民共和国が中国の代表として国連に加入したため、台湾は脱退を余儀なくされ、国際社会において不利な状況に追い込まれます。台湾人の気持ちを一つにするため、愛国映画と呼ばれる反日映画を中影が量産する時期を迎えますが、興行は大変厳しいもので、中影の財務を圧迫する状況を生み出したのでした。巷では愛国映画の動きに反して、低コストの自主制作映画(インディペンデント映画)が盛んになり、学生をテーマにした小作品が人気を呼びます。そしてこの動きが、台湾映画を国際舞台に立たせた「台湾ニューシネマ」のムーブメントにつながっていきます。台湾ニューシネマは、従来の商業ベースの映画作りとは一線を画し、台湾社会をより深く掘り下げたテーマの映画作品を生み出そうと、80年~90年代にかけて台湾の若手監督を中心に展開された一連の運動です。

■弱肉強食な台湾興行

台湾ニューシネマ以降、台湾映画がどのような変遷をたどったのかについては次回お話することにし、世間ではあまりよく知られていない台湾の映画興行についてご紹介しましょう。

台湾も日本と同様、複合映画館(シネマコンプレックス)が主流で、2017年12月末現在、全省に111の映画館(シネコン含む)が存在し、その数は増え続けています。

台湾の興行は完全な弱肉強食の世界で、ハリウッド映画が最も人気です。「邦画系」と呼ばれる日本映画をある一定期間上映するタイプの劇場は存在せず、完全に映画の実力=興行収入によってシビアに上映期間が決定されます。酷い時には一週間を待たずして打ち切られてしまう作品もあるのです。

新竹影像博物館の外部に展示されている1960~80年代の台湾映画のポスター

新竹影像博物館の外部に展示されている1960~80年代の台湾映画のポスター

映画館が強者であるとされる理由に、配給会社の「配収歩率」(興行収入に対する配給会社の取り分の比率)が低いことが挙げられるでしょう。日本では通常50~70%と設定されていますが、台湾では70%はありえない数字です。独立系配給会社になると、50%という最低限の歩率を確保することも困難で、公開2週目以降は40%まで下がってしまうケースがザラです。興行において日本と異なる点としては、前売り券が少ない、パンフレット等映画グッズの販売がない、レイトショーという概念が存在せずに毎日夜中まで興行が行われている、などが挙げられます。

大変シビアな台湾興行ですが、台湾の映画館は、好きな時にいつでも映画が楽しめる素敵な空間です。もし台湾にいらっしゃる機会があれば、映画館を覗いてみて下さい。日本よりもグッとリアクションが激しい現地の観客と共に楽しいひとときをお過し頂けると思います。

※現・中影。台湾最大の映画制作会社で、国民党が1954年に設立。関連法の改定によって政党や軍のメディア経営への関与が禁止されたのを受け、2005年に株式が民間企業に譲渡された。

<プロフィール>

西本有里(にしもと・ゆり)

早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。大学時代からアジア映画に傾倒し、東宝に入社するも、2001年から台湾へ移住。現在は台湾伝統芸能人形劇「布袋劇」の制作会社、霹靂国際マルチメディアでプロデューサーとして勤務する傍ら、翻訳、字幕翻訳、通訳、映像・出版コーディネート業を生業としている。

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAの新媒体「NNAカンパサール」2018年2月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。


関連国・地域: 台湾日本
関連業種: 経済一般・統計観光・娯楽社会・事件

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