2004年9月29日

第13回江蘇省の移転価格調査


移転価格の執行は年々厳格化される一方で規範化の方向にあり、ここでは江蘇省の移転価格調査に関する通達(蘇国税発(2004)171号)をご紹介します。

調査対象選定基準の明確化

当通達は、2004年8月に発布された新しい通達であり、省内で移転価格調査を執り行う市国税局への指導通達という位置付けにあるものの、その選定基準など納税者にとっても有用な情報といえます。

同通達の第4章には選定基準として――

登録資本金が1,000万米ドル以上の企業

中国においては“発票”の授受に基づいて申告を行なうことが要求されることから、記帳と税務申告のズレを嫌うあまり、発票主義による経理処理を行うという現実もあることは否定できません。

同一多国籍集団が省内複数の地区に設立した子会社

同一多国籍集団が省内に設立した経営規模および品種が基本的に類似する子会社

年売上高が1億元を超える企業

関連取引が頻繁かつ利益水準が低く、あるいは損失が大きい企業

利益指標が同業の他企業より明らかに低い企業

省内で垂直関連取引がある企業

その他、国家税務総局あるいは省国税局が認定した業種あるいは企業

――と規定しています。金額基準が定められていることから、資本金、売上高の基準を超える企業、同一省内(特に同一市内)に複数のグループ会社を有する企業の皆様にあっては特に注意が必要です。

重点都市として南京、蘇州、無錫が挙げられており、省内他都市よりも多くの調査ノルマが課されています。また、「連雲港政府としては投資先として距離的にも近い日本および韓国企業を積極的に誘致しているので、税務局としては重点調査対象とする」という相反する方向ながら数的にも多い両国の中国子会社がターゲットに挙げられています。

調査の規範化と合理的な結果の保証?

その一方で、省レベルの税務当局が統一的に移転価格調査の管理を行い、執行の規範性と結果の合理性を保証することも期待できるのであれば、納税者にとっては公平な税の執行が図られるという意味から望ましいものといえましょう。ただし、省内の税務局間での情報交換が活発になることも予想され、納税者にとっては手ごわい相手となりそうです。

ちなみに、第23条には「省国税局は移転価格連合調査を担当する各局が行なう案件の選定、更正結果、調査の執行について評価を行い、特段の功績のある局および局員を表彰する」、第24条には「各担当部局は、厳格に規程に定める手続を遵守して業務を遂行し、関連する文書の使用、報告批准手続の履行に注意し、上記規程に反する行為に対しては、省国税局は改善命令を出し、年度考課の過程において減点する」とあり、論功行賞を通達で定めるところが中国らしいですね。

当通達は本年度から施行されるものであり、調査対象企業数は税務局の熟練とともに今後増加していくものと思われます。いずれにせよ自社の価格設定ポリシーの明確化と年度ごとの検証を定期的に行なうに越したことはないでしょう。移転価格では予防的対策として行なうこのような作業を「文書化(ドキュメンテーション)」と呼んでいます。

※(本稿は税務会計上のポイントを実践形式で解説したものです。著者個人の意見であり、所属する法人とは関係ありません)


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