2003/07/15

第79回 杭華油墨化学<ティーアンドケイ東華>、インキの技術で中国の印刷文化支える



工場に足を踏み入れると、濃厚なインキの匂いが漂う。黒、黄、赤の液体がゆっくりと機械から流れ出し、大型タンクに静かに注ぎ込まれる――。浙江省杭州市の杭華油墨化学有限公司は、中国で印刷・活字文化を支える総合インキメーカーだ。

吉田総経理
同社の親会社は、UVインキでシェア1位のティーアンドケイ東華(本社・東京)だ。1988年に杭州市に進出して以来、現在では従業員420人を抱えるまでになった。現在では、オフセット印刷用インキとグラビア用インキを主に製造している。ここ数年は需要増に伴い、売り上げは毎年二ケタの伸びを見せているという。「中国全体ではインキ需要は8~9%の伸びだが、上海や広州など沿海地区では20%のスピードで市場が拡大している」。同社の吉田久史総経理がこう話すように、急速な経済発展に伴い、印刷用インキの需要も急増している。こうした市場をねらい、同社で生産される80%以上が中国国内市場向けだ。

■品質決める原材料の配合

働く従業員
印刷用インキの主な原材料は樹脂と顔料。これにトルエンなどの溶剤を混ぜ合わせることによってインキができる。

一見、単純そうに見える工程だが、「材料は生き物。配合比率や加工の方法によって製品に雲泥の差が出る」と吉田総経理は語る。樹脂、顔料ともそれぞれ数千種類あり、どの材料を使うか。そして樹脂をいかに均一に顔料に混ぜ合わせるか。一工程をとっても製品の差が出るというのだ。「基本的な組み合わせは決まっていても、より良い製品を生み出すため、技術開発部の社員40人は日々試行錯誤しています」と吉田総経理が語るように原材料選定へのこだわりが製品本体のかなめとなる。

樹脂と顔料は圧力、回転数の違う3本の鉄製ロールを通過してから溶剤を混入する。樹脂と顔料が製品本体の基礎部分だとすると、溶剤混入は製品の付加価値をつける応用部分だ。

■“魔法”の溶剤

「裏写り防止剤、耐光性剤、アルカリ剤……、数でいうと30種類位でしょうか」。吉田総経理からスラスラと出てくる溶剤の名前に高性能インキの秘密が隠されている。裏写り防止剤は、高速輪転機で紙が印刷された場合、積み重ねても上の紙にインキが移らないようにする溶剤だ。一般のインキが日にさらされると、時間とともに色あせする。それを防ぐのが耐光性剤。アルカリ性の液につけると、印刷が自動的に消えるアルカリ剤は、ビール瓶などの洗浄の際、その性質が生きる。「洗ビンの時、ブラシなどでこすらなくてもアルカリ性液につけると、自然に色が落ちるんです」と吉田総経理は溶剤が持つ魔法のような役割を説明してくれた。こうした隠れた技術が中国国内での競争力を維持、同社の業績を押し上げているといっても過言ではなさそうだ。

ただ、ほかの日系企業同様、同社も取引の代金回収には頭を悩ませているのも事実だ。過去に200万元の代金を回収するため、裁判に持ち込んだこともあった。以来、同社では営業の社員には、支払い期限から3カ月以内の回収を原則化。期限以内ならボーナス増となる報奨制度を設け、逆に期限を越えるとボーナス減となる制度を徹底させた。その結果、代金回収率は大きく改善されたという。吉田総経理は最後にそっと語ってくれた。「中国式ビジネスを理解するのは難しい。だからといってあきらめるのではなく、前向きに解決方法を探ることが大切なんですよ」。

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