2003/04/29

第69回 台和交通工業(THR)<日本ピストンリング>、「世界に通じる工場」実現した経営革命



自動車用ピストンリングで日本第2位の日本ピストンリング(NPR)の台湾現地法人・台和交通工業(THR)。取引先に絶賛される品質の製品を製造する一方、徹底的な経営改革によって短期間で業績を大きく好転させている。

工場風景
THRの製品はピストンリングとシリンダーライナー。ピストンリングは月間95万本を製造し、このうち90万本を日本向けに輸出。5万本は台湾内で補修用部品として供給する。また、シリンダーライナーは現在月間7,700本を生産。台湾の自動車エンジンの大手メーカー、チャイナエンジンに供給し、三菱自動車系の中華汽車の一部の車種で使用される。中華汽車は中国福建省の関連会社、東南汽車が3月に初めてセダンを発売するなど中国市場での展開を強化しており、これに伴って中華汽車への供給は今後月1万2,000~2万本に増える見込みだ。

ピストンリングはシリンダー内で上下に作動して、燃焼ガスの機密性を保ったり、エンジンオイルの量をコントロールしたり、また摩擦熱を外部に逃がすなど、エンジンの心臓部の重要な部品だ。

「NPR製品の品質は世界一のレベル」と、戸上舜二・THR副董事長兼総経理(以下総経理)は胸を張る。チャイナエンジンは現在THRを含め80数社から部品の提供を受けており、毎月部品の品質コンテストを行っている。そしてTHRの製品は最近3年半の間、同コンテストで常にベスト3に入っている。「これはNPR本社とチャイナエンジンの熱心な指導があってのことでもある」と戸上総経理。

製造現場では、第一段階の鉄の溶解から、型枠取り、鋳造、外周と内周の加工、メッキ、検品まで一貫して行っている。ピストンリングは厚さや、シリンダーとの摩擦面の角度、切り取り部分など、すべてがミクロン単位の微細さが要求される。

NPRの日本工場は、工程をほぼオートメーション化した大量生産対応のため、ロット当たりの本数が少ない受注ではかえってコストが高くなってしまう。THRの強みは、日本側のこの弱点を補完するところにある。すなわち、NPRの要求に応じてさまざまなエンジンのタイプに合わせたピストンリングを少量多品種で生産するのだ。対応可能な製品は実に2,000種類にも及ぶ。1本1本を手作業で作ることで、コストメリットを発揮することが特徴なのだ。

経営陣
THRは1967年に設立された。同社の工場と事務所に足を踏み入れると、1970年代にタイムスリップしたような錯覚にとらわれる。しかし、これこそが「世界に通じる工場」を目指す、戸上総経理の経営方針の具体的な反映なのだ。「更新はするが、絶対に設備投資はしない。いまの設備と人材で、赴任した時よりも生産を倍にする」。

戸上総経理がTHRに赴任した1999年末当時、同社は長年のぬるま湯的体質が染みついていて、改革を受け入れる雰囲気は希薄だった。

戸上総経理は、まず台湾人の管理職者に対し、企業とは利益追求の集団であるという事実を徹底的に教え込んだ。そして、いったん納得すればきっちり仕事をこなす台湾人の長所を生かすべく、会社の経営と現場のあり方について、すべての方針を明確にした。この結果、彼らは徐々に幹部としての価値判断ができるようになった。

そして当面の目標と計画を策定した上で、月間、週、日さらに1日の午前・午後と細かい管理スケジュールを作成した。数字に異常が現れた時は、戸上総経理と工場長で対策を考えて具体的な指示を出す。作業員1人当たりで1台の機械を担当していたのを、2~3台を担当させるようにし、積極的なコストダウンを図った。

こうした立て直しによって、THRの経営状態は一変した。戸上総経理の赴任した1999年と2002年を比較すると、営業利益は277%、経常利益は577%と飛躍的に拡大した。

日台の仕事に対する慣習の違いから、生産性がいま一つ改善しないと悩むメーカーは少なくない。そんなメーカーにとって、THRはまさに改革のモデルケースと言えないだろうか。

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