2001/05/28

第29回 大研香港<大研>、小兵なればこそのフットワーク



「こちらが工場です」――田中博成総経理に案内されて入った部屋は広さ約40平方メートル、中にはコンピューター制御の45トンプレス加工機が2台と15トンのプレス加工機が1台。従業員は15人。大研香港は地場メーカーと比べても小規模だ。しかし、小さいからこその身軽さを武器に、同社は大手複写機メーカーにとって欠かすことのできないパートナーとなっている。

大研香港(本社:奈良県大和郡山市)の主力業務は、プラスチック、スポンジ、ゴムなどのプレス加工。複写機、プリンター、電話機、カメラなどの部品として幅広く使われている絶縁シートや粘着シートを、型に合わせてプレス機で精密に抜いていく。生産量は1日当たり約7万枚。細かい部品だけに用途に応じて材料や形はさまざまで、製品のバリエーションは月200~300種に上る。

■技術より誠意

田中総経理は「うちは家内工業のような小さな企業」と笑うが、顧客には複写機はじめオフィス機器やカメラの有名企業がずらりと並ぶ。大手メーカーと直接取引しているのが同社の自慢だ。

大研香港工場で生産を見守る田中総経理
大研香港工場で生産を見守る田中総経理

ならば他社の追随を許さない独自の技術があるはずだ、と思いきや、田中総経理は「特別な技術はなにもありません」ときっぱり。同社が大手ライバルと渡り合えるのは、何よりも小企業ゆえの小回りという。

「高品質、低価格、正確な納期」の3原則を忠実に守ったうえで、顧客の急な要求にも素早く対応する。大手メーカーの資材部長から直々に緊急の注文を受け、その日のうちに納品したこともある。今日注文を受け、明日の朝までに納品する緊急体制が整っているのだ。離職率の高い香港にあって、同社のスタッフは香港に進出した8年前からほとんど換わっていない。「家内工業」のアットホームな雰囲気もまた、同社の最大の武器である機敏さを生み出す源なのだろう。

誠意を持って顧客に接することで信用が生まれる。信用の積み重ねが仕事の幅を広げる。「与えられたチャンスにチャレンジし、苦労して作った製品が採用された時が何よりうれしい」。以前はサービス業界に身を置いていたという田中総経理は、ものづくりのだいご味をこう語った。

絶縁シートをプレス機で精密に打ち抜く
絶縁シートをプレス機で精密に打ち抜く

■中国本土に進出

同社は今年、広東省東莞に新工場を設立する。きめ細かなサービスをモットーとする同社にとっては、常に顧客のそばにいることが重要。近年は顧客の多くが生産を中国本土にシフトしており、本土への納品が増えている。こうした流れに対応するため、本土進出を決めた。

同社は従来から、原料を設計通りに打ち抜くための「型」の製造など、一部の工程を本土メーカーに委託しており、本土進出で下請けとの連係もよりスムーズになる。

東莞工場の規模は現在の約3倍を予定している。香港工場での生産も続けるため、生産能力は大幅に拡大する。東莞は複写機、プリンター、カメラなど、絶縁シートや粘着シートを必要とする「顧客候補」の密集地域。田中総経理は「新たなチャンスがある」と意欲を示す。

同社は、業務のもう1本の柱として各種印刷も手がけているが、香港工場は設備がないため本土メーカーへ委託しているのが現状。本土工場が軌道に乗れば、印刷業務も自前で展開できる。新天地へ夢は広がる。

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