2001年11月27日

第11回 ブリヂストン・エアクラフトタイヤ・アジア<ブリヂストン>、航空更生タイヤ、アジアで1位



大埔にある「ブリヂストン・エアクラフトタイヤ・アジア」の事務所を訪ねると、アジア各国政府のライセンスが額縁入りで飾られている。『更生タイヤ工場認定証』―― 航空機の更生タイヤを生産・販売するライセンスだ。「この取得が難しいんだ」と岩佐克彦社長。その難しさの秘密をのぞいてみた。

第11回写真

岩佐社長から質問が飛んできた。「航空機の離陸と着陸で、どちらがタイヤに大きな負担がかかると思う?」――。

普通に考えれば、着陸の衝撃の方がタイヤに与えるダメージは大きいだろうと想像できる。

「それが違うんだ」と岩佐社長。タイヤにダメージを与える要素は3つある、と言う。「加重」、「スピード」、そして「熱」。燃料を満タンに積載している分、離陸時の加重は、着陸時より大きい。「離陸時は150トン級のダンプが、短い滑走路をF1より早く走るようなものなんだ」。離陸時のタイヤへの負担は、想像以上に大きいという。

■ケブラーの特許取得

そのため航空タイヤ業界では近年、タイヤの負担を軽くて強度を保つため、「バイアスタイヤ」に代わり「ラジアルタイヤ」が登場して主流になりつつある。バイアスタイヤは内部構造が厚くて頑丈だが、その分重量は重い。一方ラジアルタイヤは薄いため熱に強く、重量も軽い。

ラジアルタイヤには、突発的なバースト(パンク)を防ぐため「ケブラー」と呼ばれる超耐久繊維のベルトが斜線状に張りめぐらされている。このケブラーこそが、ブリヂストンの航空タイヤの特徴といえる。ケブラーはスチール線より軽く、スチール線と同じ強度を有する特徴を持ち、同社が特許を所有している。

第11回写真2

■「香港のメリット大きい」

航空タイヤの構造は、単純に言うと「ビード」と呼ばれるワイヤーの骨格、「ナイロンベルト」、「トレッド」の3重構造になっている。航空タイヤは通常、摩耗したゴム表層部のトレッドを取り除き、新しいトレッドを貼り付けて再使用する。これがすなわち、同社が専門に生産・販売している「更生タイヤ」だ。

ラジアルタイヤの場合、新品タイヤは約300回のランディングを経験し、その後更生を4回繰り返す。つまり、最終的に1本のタイヤは寿命までに約1,500回の離発着に耐えるわけだ。

使用済みタイヤは、大埔工場に運ばれた後、そのダメージ度を検査される。トレッドを削り取り、接着剤で新しいトレッドやケブラーに張り替える。その後、熱処理による圧縮の後、最終的に大きな検査機で空泡がないか「1本1本全て念入りに検査して」(同)から出荷する。

更生タイヤといっても、強度は新品並みに補強されるそうだ。開発段階では、1本バーストしても別の1本が2本分の負荷に耐えられるよう、何度も実験を繰り返す。

そうした研究開発費が膨大なため、商業用航空タイヤメーカーは、ブリヂストンを含めた3社だけで世界のシェアの90%以上を占めている。ブリヂストンの航空タイヤのシェアは日本で1位、東南アジアでも1位、中国では70%のシェアを持つ。顧客の40%は中国筋だ。

ならば、中国に工場を移す方がコスト的にも効率的では?

岩佐社長は「やはり中国に近く、東南アジアにも近い香港のメリットが大きい。航空タイヤはコストだけでは測れない」と言う。「航空タイヤはまずクオリティー。一度でも大事故が起きたら、顧客の多大な信用を失う」ためだ。

同社では、当局より厳しい独自の安全基準を設定。96年からはゼロデフェクト(欠陥ゼロ)方針を徹底し、最終製品の欠陥タイヤゼロが実際に続いている。同社の責任が及ばないアフターサービスにまで気を配るという。

絶え間ない研究と、高度な検査技術を常に維持すること――。航空更生タイヤの生産ライセンス取得の難しさは、ここにあるといえそうだ。

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