アジア通

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【アジア取材ノート】厳しいインドネシア小売市場 新参食品メーカーの苦悩

2017年2月号

ミニマーケット2強の一つ「アルファマート」のジャカルタ市内の店舗。ミニマーケットはインドネシアを代表する近代的小売店だ

経済成長に伴う国民所得水準の向上を背景に、インドネシアで日系食品メーカーの進出や事業拡大が相次いでいる。人口2億5,000万人を抱える巨大市場は大きな魅力に映るが、現地の小売り環境は新規参入企業にとって厳しい。日系企業が苦悩する現地特有の商習慣をリポートする。
山本麻紀子=文 カリナ・トリアナンダ、メルリヤニ・プルティウィ=写真

商品の発売にこぎ着けるまでに直面する問題の一つが、小売店に支払う高額な手数料(フィー)だ。食品を含む日用消費財メーカーが近代的小売店に商品を卸す際に各種フィーがかかる商習慣は新興国によく見られる。インドネシアでは、新商品の発売時に要求される登録料(リスティングフィー)が高額なことが特徴だ。

金額は各小売店や商品によってまちまち。ある飲料メーカー幹部は「3〜4品で数百万円規模に達した」と語る。全ては小売店側との交渉次第で、別の日系食品メーカーの関係者は「交渉で当初の半分近くに下がった」と驚きを隠せない。

総額は、1アイテムごとに設定された金額に全国の店舗数を掛けて算出される。特に「インドマレット」「アルファマート」のミニマーケット(近代的な小型店舗=コンビニ)大手2社に商品を卸す場合は、それぞれ全国に1万数千もの店舗があるため必然的に金額も大きくなる。

メーカーはさらに「トレーディングターム(取引条件)」と呼ばれる、棚代やシステム使用料、店頭で配布するチラシの広告料なども負担する必要がある。

冷蔵庫の使用料も

冷蔵ケースへの陳列には「チラーフィー」がかかることもあり、食品メーカーを悩ませる

店内の冷蔵ショーケースに清涼飲料や冷菓などを陳列する場合には、「チラーフィー」と呼ばれる棚料を徴収する小売店もある。リスティングフィーは初回導入時だけだが、チラーフィーは毎月の支払いが必要。また、店舗数に乗じて総額が決まるため、小売店が販売網を拡大すればするほどメーカーの支払総額は増えていく。チラーフィーだけで年間1,000万円以上も支払っている企業すらある。

2014年にインドネシアで茶飲料を発売した伊藤園の現地合弁の販売会社、伊藤園ウルトラジャヤ・ホールセールは、チラーフィー削減に向けた対策として、今後新たに投入する商品についてはまず売り上げ規模の大きいジャカルタ首都圏の店舗分だけで販売する方向で、小売店と交渉する検討を始めた。

重要なパートナー選び

紙パック飲料大手のウルトラジャヤの商品がずらりと並ぶ陳列棚

小売店の中でも特にミニマーケットがこうした各種手数料を徴収するのは、店内の陳列スペースが限られていることが背景にある。1店舗で取り扱う商品のうち、食品はごく一部。小売店にとって、売れるかどうか分からない商品を取り扱うのはリスクになる。新商品の「出番」は売れ行き不振な商品と入れ替わる形でしか得られない。

こうした中、新参メーカーは現地でのパートナー選びが重要になる。パートナーとなる地場企業が小売りチェーンやブランド力を持つ消費財メーカーであれば、その商流に乗せて新商品を配荷してもらえるほか、パートナーのノウハウを活用した小売店との交渉も期待できるからだ。

先述した伊藤園の現地子会社は、紙パック飲料大手のウルトラジャヤ・ミルク・インダストリー・アンド・トレーディング・カンパニーとの合弁だ。同合弁会社の宮本昌郎社長によると、パートナーが販売している上位ブランド商品にはチラーフィーが発生していない。小売店の方から「ぜひとも貴社の商品を置かせてほしい」と言われるほどのトップブランドになれば、少なくともチラーフィーを減らせるなど、具体的なメリットが見込める。

山崎製パンはアルファマートなど小売店を多店舗展開するアルファグループと組んだ。また、江崎グリコやカルビーは日用品・食品製造大手のウイングスグループと、ゼリーのたらみはナタデココ最大手などと、それぞれ合弁事業を展開している。

「近代小売店はもうからない」

ジャカルタの個人商店。こうした伝統的小売店に商品を並べるにも、近代的小売店との取引実績がカギを握る

リスティングフィーなど各種手数料の支払いは避けられず、商品の売れ行きが悪ければこれらの経費さえ捻出できない。「近代小売店はもうからない」「もうかるまでいかに長く粘れるかが成否のカギを握る」──。こう断言する人さえいる。

小売市場全体の7〜8割を占め、ゼネラルトレード(GT)と呼ばれる個人商店などの伝統市場はどうだろうか。市場規模の大きさはもとより、近代小売店のような経費もさしてかからないため、食品メーカーは当然GTにも入り込みたい。

ところが、GTの店主への売り込みは、近代的小売店での取引の有無、つまり認知度が高いかどうかが店主側の判断材料となる。こうした事情からも、全国に2万店以上を展開するミニマーケット2社への依存度が高くなっている。結局はまず近代小売店から攻めざるを得ないのが実情だ。

高い返品率と値下げ前提の価格

「2個購入すれば追加の1個が無料(Beli 2 Gratis 1)」になる販促のPOP。インドネシアで定番の販促の一つだ

インドネシアの小売店の商習慣では買い取り制度を採らないため、売れ残った商品の返品率が高い。日本の場合、売れ行き不振で販売打ち切りとなった商品について問屋から返品があってもせいぜい1%未満。インドネシアでは賞味期限が1年程度の食品で3〜5%、1週間以内の商品なら平均20%台、時には30%に達することもある。

あるメーカーの関係者は、小売店の発注量をうのみにしないことを対策に挙げる。小売店の売り上げや在庫量を見ながら生産計画を立て、少し足りない程度の量を発送するのがちょうどいいそうだ。

このほか、日系のメーカーを悩ませているのが割引を前提とした価格設定だ。期間を限定した2〜3割の値下げ、2個買えばもう1個を進呈、といった販促は当たり前。問題なのは、小売店があらかじめ値引き分のマージンを確保する一方で、メーカーは商品が売れた分の割引額をまるごと負担しなければならない仕組みだ。

「商品の売れ行きが思わしくない」と小売店側に相談しても「売れるように値引きしろ」と言われるのが関の山。インドネシアでの販促は小売店にすべての決定権がある。また小売店は店内に商品を並べ、売れた分の現金を回収するだけで、商品の認知度を上げるための取り組みも期待できない。

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