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【アジア取材ノート】新しい屋台の形 フードトラックが熱い

2016年10月号

ハンバーガーを売るタイの「ソーリー・アイム・ハングリー」。もともとバンコク市内に実店舗があったが、今年4月からフードトラックも展開している

屋台文化が色濃く残るアジアで、トラックを改造した移動型の飲食店「フードトラック」で起業するケースが増えている。実店舗に比べて参入障壁が低く、身軽に営業できるのがこの「新しい屋台」の魅力だ。タイとマレーシアで取材を進めると、ここでも存在感を見せつける日系自動車メーカーの戦略や、法整備をめぐる課題などが見えてきた。
シンチャイ・プラサーンスックラープ、降旗愛子=文・写真

商業施設が林立しながらも屋台文化が色濃く残るタイ・バンコクで、フードトラックは近代と伝統の中間に位置するニッチ分野だ。フットワークが軽く低コストで営業できるため、ここ数年で起業や拡販の手段として存在感が増している。

もともとバンコクに実店舗を持っていたジェンナロンさん(30)は、多くの顧客の要望に応える形で今年4月にフードトラックによるハンバーガーの販売を始めた。車両はスズキの軽トラック「キャリイ」を使い、「ソーリー・アイム・ハングリー」ブランドで展開。ハンバーガーを単価159〜219バーツ(約460〜640円)で販売している。特装車となるフードトラックは改装費用が必要だが、高い宣伝効果が期待できることなどが決め手となった。

グリルサンドイッチを販売するタイの「ファットバスタード」。共同経営者のアサヤさん(右)は、高評価の口コミからスズキのキャリイを車両に選んだ

同じくキャリイをベース車とするフードトラック「ファットバスタード」の共同経営者であるアサヤさん(27)は昨年に北部のチェンマイで事業を開始。ただチェンマイはバンコク首都圏と比べ人口が少なく、市場が小さい。チェンマイのフードトラックは5〜6台程度だったという。現在は市場が大きくフードトラックが集まるイベントも多いバンコクで外国人や通勤者向けにグリルサンドイッチ(139〜149バーツ)を売っている。

ウパックさん(49)はかつて実店舗でチキンヌードルを販売していたが、従業員の確保に課題を抱えていた。このため、1年半前にフードトラックで飲料やトースト(35〜75バーツ)を販売する事業に転換。今は「夫婦で料理し、販売する。身軽になった」と満足げだ。

スズキが需要発掘

タイの軽トラ市場で中国系、インド系の競合メーカーを大きく引き離してトップの座にあるスズキのタイ現地法人、スズキ・モーター・タイランドは、フードトラック市場でも存在感を見せつけようとしている。今年はキャリイを3,000台販売する目標を掲げており、近年のフードトラック人気を追い風に拡販していく方針だ。

タイは1トンピックアップトラックのイメージが強いが、キャリイの魅力は「小回りが利き、安価で十分な荷室スペースがあり、荷室ゲートが3方向に開閉できて機能的」(同社販売担当者)なこと。同社は今年、フードトラック需要を取り込むためのイベントをバンコクやアユタヤ県など5カ所で実施した。

ファットバスタードのアサヤさんは、口コミで耐久性の評判が良かったことでキャリイを選んだ。東京から岡山間の距離に相当するチェンマイからバンコクまでの道のりを走っても「何も問題はなかった」と太鼓判を押している。

本格イタリアンを屋台で

イタリアンを提供するマレーシアの「ラ・ファミリア」。中央の男性がオーナーのダニアル・マリッドさん。ランチと夕食時それぞれ4〜6時間の営業で毎日計200〜300人が訪れる

もともと軽トラを改造した車両で飲み物や弁当を販売する光景が日常的なマレーシアでも、あらためてフードトラックに関心が高まっている。

イタリア料理を提供する「ラ・ファミリア」は、3年前に開業したマレーシアの新たなタイプのフードトラックだ。ダニアル・マリッドさんが親友2人とともに立ち上げた。開業資金はトラックの購入費用も含め13万リンギ(約335万円)程度だった。提供するスパゲティは1食6.5リンギ。ダニアルさんは「レストランやカフェなら17リンギは下らない」と話し、本格的な味を屋台価格で提供できるのが強みだと胸を張る。

クアラルンプール・フードトラック協会のアズラン・アバス会長によると、マレーシアでフードトラックは決して新しいビジネスではないが、ファッショナブルで大型の専用トラックを使ってイタリア料理やメキシコ料理などを提供するのが昨今のトレンドだ。元シェフがサンドイッチの移動販売を始める米国映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました(邦題)」(2014年)をきっかけに、新しいタイプのフードトラックの認知度が一気に高まったという。

昨年のGST(消費税)導入後に消費が弱まったことで、「高い賃料を払って顧客が来るのを待つレストランより、顧客がいるエリアに移動して商売するフードトラックの方が収益が見込める」との声も上がっている。

「移動飲食店」はグレーゾーン

マレーシアのKL市が6月初旬に市中心部の独立広場で開催したフードトラック祭りには120台が集結した

ブームは行政にも波及している。クアラルンプール(KL)市は昨年からフードトラックの開業セミナーなどを実施。連邦直轄区相は先ごろ、KLのクラン川河岸再開発でフードトラックの常設エリアを設けると発表した。

ただ行政がブームを後押しする一方で、フードトラックの営業を保証するライセンスやガイドラインが確定していないことが、起業の妨げにもなっている。

フードトラック協会のアズラン会長によると、現在営業しているフードトラックの多くは、食品の移動販売事業者向けのライセンスか、露天商向けのライセンスを交付されている。だが、「移動する飲食店」であるフードトラックは両者の中間に位置するといえ、グレーゾーンで営業しているのが実態となっている。

KL市は現在、移動飲食店を対象とした新たなライセンスの交付に向け、関係省庁や事業者と協議中だ。アズラン会長は「多くの参入希望者がライセンスの取得問題で事業を断念している」と指摘。業界の健全な発展のためにも法制度の整備が待たれている。

ネットが鍵に

フードトラックのオーナーが口をそろえるのは、インターネットの重要性だ。フードトラックは自由に移動できるが、定位置で営業しないことで顧客の確保が難しい。

トヨタ自動車のピックアップ「ハイラックス」で軽食を販売するタイのナタネンさん(37)は、トラックオーナーのためのネットコミュニティーに参加する。商業施設前などで開かれるイベントが稼ぎ時で、素早く情報をつかまなければ商機を失う。「イベントでの場所代はさまざまで、無料の時もある」という。消費者とのつながりを保つため、SNS(交流サイト)「フェイスブック(FB)」と写真共有アプリ「インスタグラム」で紹介ページも開設した。別のトラックのオーナーも、「FBできめ細かく連絡を取れば、消費者のいる場所へ飛んでいける」と話している。

イタリアンを提供するマレーシアのダニアルさんは、毎日の営業場所を知りたいというファンに向け、専用アプリを開発した。ラマダン(断食月)の期間には、有力英字紙と共同イベントを開催。専用ハッシュタグとともにイベントの様子をソーシャルメディアに投稿した人に、無料で食事を提供した。

従来の屋台文化を引き継ぐようなフードトラックに、ネットを活用する。まさに今時のアジアのビジネスと言えそうだ。

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