【ASEAN】不動産開発・建機業界から見るタイプラスワン・3

第3回 カンボジアとミャンマーではどちらが有力な進出先か(その3)

前回(<http://www.nna.jp/articles/show/1543349>)は、カンボジアの建機業界の動向を見ながら、ファイナンスの提供が販売促進における重要なポイントの一つであることを説明した。カンボジアの建機へのファイナンスで現地での需要があることは分かった。一方で、このようなファイナンスを実施するための事業環境はどの程度整理されているのだろうか。ファイナンス事業で重要なのは「どれだけ貸し倒れが起こるか」、また「どの程度資金回収が出来るのか」だ。特に貸し倒れが起こった際に「どの程度担保保全が可能か」、また「担保価値がどの程度あるか(担保を換金できる市場等の存在)」といった点がポイントになる。今回は、このようなカンボジアの建機ファイナンスに関する事業環境の特徴と、そこでどのようなサービスが提供されているのかを、現地業者の貸し倒れリスクへの対応策と併せて見ていきたい。

■現地の建設会社は破綻しない?

まずは、そもそもカンボジアの新車の建機ファイナンスにおいて、貸し倒れ、つまり建設会社の破綻がどれだけ発生しているのだろうか。まずは建設業界の声を拾ってみた。

「最近大型の建設会社の破たんは聞いたことない。基本的に彼らはそれなりに資本の裏付けがあったり、政府ともコネクションがあるからだ」

現地の中堅建設会社を経営するChheng Youseng氏は言う。新品の建機を買うことのできる大手の建設会社や鉱山会社などは大手財閥系が多く、昨今の不動産ブームで事業拡大の最中にあることもあり、それほど破綻は発生していない。一方、2次請け、3次請けのような末端の中小建設会社では倒産はそれなりの頻度で起こっているようだ。

現地の建機リース会社にも同様に新車建機での貸倒れの発生の頻度を聞いてみた。そこでは、かれこれ5年間ほど建機リースを提供しているが、貸し倒れの発生は1回のみとのこと。ここでは新品の建機のみを取り扱っており、新品を買うような建設会社は基本的には破綻はしないとの話がここでも聞かれた。

本当にそんなに貸し倒れは少ないのだろうか。現地の人気建機ブランドの一つボルボの認定ディーラーであるUMG社の営業担当も「実際、弊社においても貸倒は少ない」という。

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新車の建機が並ぶUMGカンボジア(株式会社アジア戦略アドバイザリー提供)

新車の建機ファイナンスにおける貸倒れについて、建設会社も、建機リース会社も、また建機販売会社もそれぞれそろってほとんど発生しないとの返答が返ってくる。昨今の不動産ブームが継続していることがその原因の一つだが、それ以上に新車の建機を買える会社が、破綻リスクの少ない大手企業に偏っていることがその原因のようだ。

■台湾系大手リース会社の進出も

このように、表面的には比較的リスクが少ないように見える建機ファイナンスだが、カンボジアの建機の新車ディーラーのすべてが、自社でファイナンスを提供しているわけではない。前回は、自社グループでファイナンスを提供しているヒュンダイのケースを見てきたが、中には自社でファイナンスは提供しておらず、提携リース先のファイナンススキームを使っている建機メーカーも存在する。

例えば現地の日系建機メーカー向けには、現地に進出している日系商社会社からリースが提供されている。ここでのリースは基本的にはオペレーティングリースで、契約満了時に購入するか返還するかのオプションが付いている。ただ、現在建設業が好景気であることから機械をそのまま保有したい業者が多いことや、カンボジア人の感覚で、可能であれば購入したいと思っていることもあり、契約満了時にそのまま購入することが多いとみられる。

ここで提供しているリースは、頭金は30%以上が必要で、期間は中古建機に関しては4年 新品に関しては5年となっている。ここでも横流しの防止のために、メーカー側で搭載されていない建機に関しては、衛星利用測位システム(GPS)を自社で取り付けている。

このようなリースは今後も成長が見込まれ、新規にマーケットに参入する企業もある。例えばNNAの11月29日付記事「リースの中租、カンボジアに現地財閥と合弁」(<http://www.nna.jp/articles/result/1540155>)によると、台湾系リース大手の中租控股(チャイリース)が、カンボジア最大のコングロマリットの一つ、ロイヤル・グループと合弁でリース会社「チャイリース・ロイヤル・リーシング(Chailease Royal leasing)」をカンボジアに最近設立した。主に車両や設備、建設機器などのファイナンスリースを手掛けるようで、中租の陳鳳龍董事長は「カンボジアは過去10年で毎年平均7.5%の経済成長率を実現しており、リース業務は潜在力の大きいサービス」と述べている。

■自社GPSソフトを使い担保保全を行っているORO社

マイクロファイナンス会社でも建機に対するローンを手掛けている会社がある。例えば日系のORO Financeocorp Plc.は、現地の建機会社向けローンを積極的に展開している。同社の深田社長は言う。

「ビジネスローン、農機ローン、建機ローン、車ローンなど幅広く取り扱っている。現地のマイクロファイナンス会社で、建機ローンを積極的に手掛けているローン会社は非常に少ない。1件あたりのローン金額が大きくなるので資本金が大きくないと資本金規制に抵触するので対応できるローン会社が限られると思われ、独自のノウハウも必要。当社では中古も含めてほぼ全ディーラーとコンタクトしており個別顧客ごとに対応している」

彼らの提供しているファイナンスの形態は割賦で、頭金は30%以上、期間は基本3年間だ。ここでも貸し付けの際、貸し倒れ時の横流しや建機自体の紛失などのリスクを回避するためにGPSを搭載することを貸出しの条件としている。この会社の場合は、自社開発したGPSソフトを使っており、通常の位置情報や走行距離情報の取得に加えて、遠隔でエンジンの停止が可能であり、それにより盗難や売却などを防いでいる。

このようにカンボジアにおける建機に対するファイナンス状況からも見えるとおり、現地にはさまざまな形でのファイナンス会社がサービスを提供している。ここで紹介したような形態以外にも現地系銀行や外資の銀行による貸付も含めて、現地では多様な形態でのファイナンスが現地での建機ニーズを底堅く支えている。

現地の建機やそれに対するファイナンスに対する強い需要は、前述の深田氏の発言からもうかがえる。

「南部経済回廊や東西回廊、空港拡張などのインフラ工事が目白押しなので、建機に対する需要は底堅い。そうした中でもこちらの建機に対する資金ニーズは極めて高く、ディーラーからの引き合いは、需要の多い乾季ではまとまって10台づつ単位で入ってきたりもする」カンボジアの旺盛なインフラ需要の足元を、このような資金供給で支えている構図が見えてくる。

今まで見てきたカンボジアの建機へのファイナンスの事業環境の特徴をまとめると、下記のとおりとなる。

●資金需要:現在極めて旺盛

●資金供給:銀行貸付け、建機メーカーによる貸付、リース、マイクロファイナンス機関による貸付などのルートでのファイナンスが行われている

●貸倒れの発生:比較的少ない様子

●担保保全:GPSを敷設することにより、貸し倒れによる担保保全を防ぐ仕組みが実施されている

●担保価値:中古建機に対する需要は底堅いため、メーカーや機種にもよるが市場での流動性及び一定程度の価値が維持されている

■比較的自由度の高いカンボジアの金融業界環境

プノンペンの街中を歩くと、東南アジアの主要な金融機関の店舗をよく目にし、さながらアセアンの金融機関の見本市のようだ。カンボジアは金融事業に対して比較的法規制も緩く、多くの金融機関の間で活発な競争が行われ、その結果貸付金利水準の低下を含むサービス水準の向上も図られている。

政府の金融業界に対する規制が緩い例として、上限金利制限がないことも挙げられる。つまり、貸出金利の水準も具体的な制限が存在せず、また上限金利の規定も存在しない。 現地のカンボジア政府は、そうした中で上限金利の設定も図っているようだが、管轄省庁である中央銀行や現地事業会社は、それに対して反発を強めている。

11月30日付のNNA記事「金利上限の設定、業界関係者は否定的」(<http://www.nna.jp/articles/result/1540600>)によれば、カンボジア政府は農家支援策などのため、市中金融機関の融資金利に上限を設ける方向性で検討しており、それに対してカンボジア中央銀行や金融業界関係者は、自由競争が失われると否定的な見解を示している。

同記事によると、「カンボジアのマイクロファイナンス(小口金融)機関の金利は、過去10年間で30%近く下落している。コスト削減や事業運営の効率化が要因だ。2015年は20.3%にまで下がり、世界平均の27.0%を大きく下回っている」とある。

このように、金融事業に対する規制が緩く、結果的に健全な競争の中で市場として妥当な水準で金利設定が行われているのがカンボジアの特徴だ。

実はこうした点は、ミャンマーにおける金融行政とは大きく趣を異にしており、この点がカンボジアとミャンマーの進出環境の違いを考える上でも、実は大きな差となって表れている。次回以降で、ミャンマーにおける建機業界の状況と、それに対するファイナンスの状況を見ていきたい。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学及び生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリー及び業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: 台湾ミャンマーカンボジア日本アジア
関連業種: 経済一般・統計製造一般金融・保険建設・不動産

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