2017/01/12(木)

【アジア取材ノート】香港クラフトビール 期待の市場に乾杯を

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リトル・クリーチャーズの醸造責任者、トム・チャンピオン氏。バーカウンターの後ろに醸造タンクがずらりと並ぶ

香港でクラフトビールを製造するブルワリー(醸造所)が増えている。3年前には皆無だったブルワリーが20カ所も新設され、外資も参入してきた。新しもの好きの香港人は大手の大量生産品に飽き足らず、個性的で高い品質のクラフトビールを楽しみ始めている。(森ちづる=文・写真)

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リトル・クリーチャーズの店内はオープンキッチンがあり、ビールと食事を楽しめる

2016年11月、香港島・セントラル(中環)でクラフトビールの大型イベント「ビアトピア」が開かれた。世界のクラフトビール500種を楽しむことができるという祭典で、12年の開始から5年目の今回は1万4,000人以上が集まった。

主催したジョナサン・ソー氏は「香港のクラフトビール市場はまだ形成初期段階。ただ成長の可能性を多く秘めている」と指摘。香港には現在、20を超えるクラフトビールのブルワリーがあると話す。

繁華街の飲食店では最近、クラフトビールの取り扱いが増えたほか、たる生で提供を行う専門店もよく見かけるようになった。

食があふれる香港では、消費者が口に入れるものへの品質の要求が高まっている。同時に、香港人は新しいものに目がない。そのニーズに応え、醸造にこだわり種類も豊富な香港ならではのクラフトビールが浸透し始めている。

クラフトビールの業界団体、香港手工ヒ酒協会(ヒ=口へんに卑)の劉心暉(トーマス・ラウ)会長は「トレンドというよりも革命という言葉が合っている」と表現。まだ市場は小さいが、これまで大企業が大量生産する安価なビールを飲んでいた消費者がクラフトビールに出会い、認知し始めているというのだ。ビールが人気の香港において、クラフトビールの伸びる余地もまた大きいと考えられる。

■「競争ではなくコラボ」

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16年7月、オーストラリアに本拠を置くクラフトビール製造のリトル・クリーチャーズが、海外1号店を香港島のケネディータウンに開店した。

醸造責任者を務めるトム・チャンピオン氏は「これまでオーストラリアの国内市場を広げてきたので次のステップとして海外を目指した。香港は賃料などコストは高いが、アクセスのしやすさ、英語が通じ、多文化を受け入れること、中国本土よりも拠点を設立しやすいことなどが進出の決め手となった」と説明する。

ブルワリーは倉庫(約557平方メートル)を改装。飲食スペースも併設し、約200席の店内は天井が高く開放的だ。バーカウンター後ろには容量500リットルの醸造タンクが6基並ぶ。クラフトビールの醸造所としては小規模なものだ。

オープン当初は豪州人が多く訪れたが、客層は他の外国人、香港市民、観光客へと広がった。香港クラフトビール市場の成長はとても速く、「香港人はエキサイティングなものを求めている」と分析する。さまざまな種類のクラフトビールが生まれる中で、チャンピオン氏は「市場開拓の余地はまだまだあり、競争することはない。消費者が多種多様なクラフトビールを楽しむことができているという意味では、競争ではなくコラボレーションだと考えている」と話す。

今後は香港での知名度を上げるとともに、ディストリビューターも見つけていく方針で、既にシンガポールや上海で代理販売先を見つけた。

先のビアトピアでは、ラガーイーストで常温醸造する「カリフォルニア・コモン」をベースにアレンジした香港発の「ホンコン・コモン」を発表した。これからも新しいものを投入していくと意欲的だ。

■香港で作って本土で売る

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常陸野香港ブルワリーは赤いフクロウがトレードマーク

昨年8月には日系企業も参戦した。茨城県那珂市の蔵元、木内酒造が新界・火炭にクラフトビールのブルワリー「常陸野香港ブルワリー」を設置した。

工場を設置したのは中国本土でのクラフトビール人気の高まりが背景にある。年間目標出荷量300キロリットルの大部分を本土向けに製造する。

本土からはかねて同社製品の注文が寄せられていたが、11年に発生した東日本大震災以降、中国政府は茨城県を含む10都県産の食品輸入を停止した。しかし、本土は非常に魅力ある市場だ。そこで地理的にも近い香港で商品を製造し、本土へ輸出する形をとった。

常陸野香港ブルワリーの醸造責任者、黄思偉(クリス・ウォン)氏は、良質な原料がすぐに届く輸送面のメリットがあると話す。本土に醸造所を設けても原料輸入に煩雑な手続きがあり、品質にも不安が残る。香港にはそのリスクが小さいほか、高い技術を持った人材が多く、東南アジア市場も視野に入れられる。ただ、香港の賃料の高さはネックとなった。

工業ビルが集まる火炭エリアの一角にあるブルワリーは、テイスティングが可能なバーを併設。バーの裏手にはドイツから輸入した原料のモルトやタンクなどが並ぶが、工場は別フロアに続く。エレベーターで11階に上がると、また別の製造工程にあるタンク、ボトリングラインが目の前に広がった。黄氏は「2つのフロアに分かれるブルワリーは香港でもここだけだろう」と笑う。

木内酒造は香港の開拓も同時に進める。「豊かな食文化によって、ビールと食事を楽しめる環境が整っている」ことも香港に拠点を設けた理由の一つだった。

同社のクラフトビールは「流行にとらわれず、独特な日本のスタイルを持つ」のが強みだ。古代米「赤米」を用いた薄赤色の「レッドライスエール」や女性を意識した香港限定のミルクスタウトを製造する。長期的には香港や海外向けのサブブランドを作ろうと計画している。

■正しい知識を伝えていく

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日本の技術を用いた独特のスタイルでビール作りに励む黄氏

本土やアジアに近いという地理的優位性、一部酒類は酒税がかからないなどの事業環境。すでにコンビニエンスストアにも流通し、消費者がクラフトビールを手にとっている。ローカルのビールよりは高いが、ワインよりは安いため手軽に挑戦できるのが人気の秘密のようだ。特に女性に受けているという。

今後の市場見通しを楽観する声は多いが、クラフトビール業界団体のラウ会長は、初期段階だからこそビールの扱い方や提供の仕方などを心得ていない業者もいると、未成熟な点を指摘する。

「香港は今後、米ニューヨークや東京などのように、クラフトビールが集まる市場になるとみるが、健全な市場の成長を促すためには消費者に対して、クラフトビールがどのようなものか正しい知識を伝えていく必要がある」と説いた。

<激しさ増す本土市場の競争>

本土では比較的市場が整いつつある上海や北京、成都、広州などでクラフトビールが消費され、レストランやバーのほか、カフェでも広まる。「カフェにいるバリスタはコーヒーに限らず何がおいしいか、客が何を求めているか熟知している」(黄氏)。

本土メディアによると、20年末までにはクラフトビールを含む高級価格帯ビールの本土市場が800億米ドル(約8兆7,000億円)規模に成長し、ビール市場全体に占めるシェアでは3割以上に拡大するとの指摘もある。クラフトビールがこれまで以上に飲まれることは間違いない流れといえる。

外資の大手ビールメーカーでも利益率の高い高級ビールに軸足を移す動きが出ており、今後メーカーの競争は激しさを増してきそうだ。

※このウェブサイトの新特集「アジア取材ノート」は、アジアを横断的かつ深く掘り下げる、NNA倶楽部の会員向け月刊会報「アジア通」2017年1月号<http://www.nna.jp/lite/>から転載しています。毎月1回掲載。


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